ARM CPU搭載パソコンがヒットする理由 – 消費電力だけじゃない!Mac、Windows、Chromebookとの比較と最新リサーチ
はじめに
近年、スマートフォンやタブレットで主流となっているARMアーキテクチャを採用したCPUを搭載したパソコンが注目を集めています。 1 AppleのM1チップ搭載Macの成功を皮切りに、WindowsパソコンやChromebookにもARM CPU搭載モデルが登場し、市場を拡大しつつあります。
ARM CPU搭載パソコンがヒットする理由として、まず挙げられるのはその低い消費電力です。しかし、その魅力はそれだけではありません。本記事では、ARM CPU搭載パソコンが注目される理由を、消費電力に加え、性能、互換性、価格、将来性といった様々な視点から解説します。さらに、Mac、Windows、ChromebookといったOSとの相性や、最新のリサーチ結果も交えながら、ARM CPU搭載パソコンの現状と未来を深く掘り下げていきます。
1. ARM CPUとは? x86 CPUとの違い
ARM CPUは、ARM Holdingsが設計するCPUアーキテクチャに基づいて製造されるCPUです。x86 CPUとは命令セットアーキテクチャが異なり、**RISC(縮小命令セットコンピュータ)**と呼ばれる設計思想を採用しています。 2
x86 CPUとの主な違い
項目 | ARM CPU | x86 CPU | Typical Applications |
---|---|---|---|
命令セットアーキテクチャ | RISC | CISC | |
消費電力 | 低い | 高い | Smartphones, embedded systems |
処理能力 | モバイル向けに最適化 | 高性能 | Servers, high-performance computing |
価格 | 低い | 高い | |
互換性 | 限られている | 高い |
ARM CPUは、x86 CPUに比べて消費電力が低く、小型化しやすいという特徴があります。そのため、スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器で広く採用されてきました。近年では、処理能力の向上により、パソコンにも搭載されるようになっています。 3
ARM CPU variations for different applications
ARM Holdingsは、CPUコアの設計のみを行い、ライセンス供与によって様々なメーカーがARM CPUを製造しています。そのため、用途に合わせて多様なARM CPUが存在します。
例えば、サーバー向けには、高い処理能力と拡張性を備えた「Neoverse」ブランドのCPUが開発されています。2019年には「Neoverse N1」、2021年には「Neoverse N2」が発表され、データセンターやクラウドコンピューティングなどの分野で採用が進んでいます。 4
一方で、組み込みシステム向けには、リアルタイム処理能力や低消費電力に特化したCPUが提供されています。ただし、一部のARM CPUにはRTC(リアルタイムクロック)が標準で搭載されていないなど、用途によっては注意が必要な点もあります。 2
2. ARM CPU搭載パソコンがヒットする理由
2.1. 低消費電力によるバッテリーの長時間駆動
ARM CPUの最大のメリットは、x86 CPUに比べて消費電力が低いことです。そのため、ARM CPU搭載パソコンは、バッテリーの持ちが非常に長く、長時間駆動が可能です。モバイルワークや外出先での作業が多いユーザーにとって、これは大きな魅力となります。 1
2.2. 性能の向上
従来、ARM CPUはx86 CPUに比べて処理能力が低いと言われてきました。しかし、近年では、ARM CPUの性能は飛躍的に向上しており、x86 CPUに匹敵する、あるいは凌駕する性能を持つCPUも登場しています。AppleのM1チップはその代表例であり、高い処理能力と低い消費電力を両立しています。 4
2.3. 価格の安さ
ARM CPUは、x86 CPUに比べて製造コストが低い傾向があります。 3 そのため、ARM CPU搭載パソコンは、x86 CPU搭載パソコンに比べて価格が安い場合が多いです。コストパフォーマンスを重視するユーザーにとって、ARM CPU搭載パソコンは魅力的な選択肢となります。
2.4. 将来性
ARMアーキテクチャは、スマートフォンやタブレットで圧倒的なシェアを誇っており、今後も進化を続けることが期待されます。ARM CPU搭載パソコンは、最新の技術革新の恩恵を受けやすく、将来性が高いと言えるでしょう。 5
3. Mac、Windows、ChromebookにおけるARM CPU
3.1. Mac
Appleは、2020年に独自開発のARM CPUであるM1チップを搭載したMacを発表しました。M1チップは、高い処理能力と低い消費電力を両立し、Macのパフォーマンスを大幅に向上させました。その後、M1 Pro、M1 Max、M2といったさらに高性能なARM CPUを搭載したMacも登場し、MacにおけるARM CPUへの移行は加速しています。
MacにおけるARM CPUのメリット
- 高い処理能力と低い消費電力の両立
- バッテリーの長時間駆動
- 静音性
- macOSとの最適化による安定性とパフォーマンスの向上
3.2. Windows
Windowsパソコンにも、ARM CPUを搭載したモデルが登場しています。Microsoftは、ARM CPUに対応したWindows 10/11をリリースしており、ARM CPU搭載Windowsパソコンの普及を促進しています。 6
WindowsにおけるARM CPUのメリット
- バッテリーの長時間駆動
- 常時接続による快適な使用感
- 薄型軽量でスタイリッシュなデザイン
- セキュリティの向上
WindowsにおけるARM CPUの課題
- x86アプリケーションとの互換性
- ソフトウェアの選択肢の少なさ
3.3. Chromebook
Chromebookは、Googleが開発したChrome OSを搭載したノートパソコンです。Chromebookにも、ARM CPUを搭載したモデルが登場しています。ARM CPUの低い消費電力は、Chromebookのシンプルな設計思想と相性が良く、バッテリーの長時間駆動を実現しています。
ChromebookにおけるARM CPUのメリット
- バッテリーの長時間駆動
- 低価格
- 起動の速さ
- セキュリティの高さ
ChromebookにおけるARM CPUの課題
- オフラインでの作業に制限がある
- アプリケーションの選択肢の少なさ
4. 最新のリサーチ結果
With the growing adoption of ARM CPUs across different platforms, recent research highlights several key trends that are shaping the future of ARM-powered devices.
4.1. ARM CPUの性能向上
最新のARM CPUは、x86 CPUに匹敵する、あるいは凌駕する性能を持つようになってきています。特に、AppleのM1チップシリーズは、シングルコア性能、マルチコア性能ともに高い評価を得ています。ベンチマークテストの結果では、M1チップは、IntelやAMDの最新CPUと比較しても、遜色ない、あるいはそれ以上の性能を示しています。 7
Armv9ベースの新しいCPUが登場し、性能向上が加速しています。例えば、「Cortex-X925」は、Arm Cortex-Xシリーズで最高の性能向上を達成し、「Cortex-A725」は卓越した持続性能を実現しています。また、「Cortex-A520」と「DSU-120」も刷新され、かつてない性能、効率性、汎用性を提供しています。 7
4.2. 互換性の改善
ARM CPU搭載パソコンにおけるx86アプリケーションとの互換性は、以前は大きな課題でしたが、近年では、エミュレーション技術の向上により、多くのx86アプリケーションがARM CPU搭載パソコンで動作するようになっています。Windows 11では、x86アプリケーションのエミュレーション機能が標準搭載されており、ARM CPU搭載Windowsパソコンでも、従来のWindowsアプリケーションを利用することができます。 6
4.3. アプリケーションの増加
ARM CPU搭載パソコン向けのアプリケーションは、以前は数が限られていましたが、近年では、ARM CPUに対応したアプリケーションが増加しています。Microsoft OfficeやAdobe Creative Cloudなど、主要なアプリケーションの多くがARM CPUに対応しており、ARM CPU搭載パソコンでも快適に作業できる環境が整いつつあります。
4.4. ARM CPU搭載パソコンの市場拡大
ARM CPU搭載パソコンの市場は、年々拡大しています。調査会社Canalysのデータによると、2023年第3四半期におけるARM CPU搭載パソコンの出荷台数は、前年同期比で約2倍に増加しました。AppleのM1チップ搭載Macの成功が、ARM CPU搭載パソコン市場の成長を牽引しています。 8
4.5. NPUの進化
近年、AI処理に特化したNPU(Neural Processing Unit)が注目されています。ARM CPUにもNPUが搭載されるようになり、AI処理性能が向上しています。 9
例えば、AMD Ryzen 8040はNPU単体で16TOPS、NPU+CPU+GPUで39TOPSのAI処理性能を達成しています。Qualcomm Snapdragon X Eliteは、NPU単体で45TOPS、NPU+CPU+GPUで75TOPSを達成しています。 9
5. Drawbacks of ARM CPUs
ARM CPU搭載パソコンは多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も抱えています。
- x86アプリケーションとの互換性: Windows on ARMではエミュレーション技術によりx86アプリケーションを実行できますが、ネイティブ動作するx86アプリケーションに比べて性能が低下する場合があります。 6
- ソフトウェアの選択肢: ARM CPUに対応したソフトウェアは増加していますが、x86 CPUに比べるとまだ少ないのが現状です。特に、ゲームや専門的なソフトウェアは、ARM CPUに対応していないものが多くあります。 10
- 周辺機器の互換性: 一部の周辺機器は、ARM CPU搭載パソコンでは正常に動作しない場合があります。 5
6. ARM CPU搭載パソコンの未来
ARM CPU搭載パソコンは、今後も進化を続け、市場を拡大していくことが予想されます。
- 性能の向上: ARM CPUの性能は、今後も向上していくことが予想されます。より高性能なARM CPUが登場することで、ARM CPU搭載パソコンは、さらに幅広い用途で利用できるようになるでしょう。 9 例えば、次世代のCPUコアでは、従来比で36%の性能向上が見込まれています。 8
- 互換性の向上: x86アプリケーションとの互換性は、今後も改善されていくことが予想されます。エミュレーション技術の進化や、ARM CPUに対応したアプリケーションの増加により、ARM CPU搭載パソコンで利用できるアプリケーションはますます増えていくでしょう。
- 新たなユースケースの登場: ARM CPUの低い消費電力は、新たなユースケースの登場を促進する可能性があります。例えば、折りたたみ式パソコンや、常時接続可能なパソコンなど、ARM CPUの特性を活かした革新的なデバイスが登場するかもしれません。
- 市場の拡大と競争の激化: ARM CPU搭載パソコンの市場は、年々拡大しています。 8 また、ARM CPU市場への新規参入も増加しており、競争が激化することが予想されます。 9 この競争は、さらなる技術革新と性能向上を促進するでしょう。
- 多様なアプリケーションへの展開: 従来、ARM CPUはモバイル機器や組み込みシステムで広く採用されてきましたが、近年では、その応用範囲が拡大しています。 5 パソコンだけでなく、自動車や家電製品など、様々な分野でARM CPUが利用されるようになり、その影響力はますます高まっていくでしょう。
7. 結論
ARM CPU搭載パソコンは、低い消費電力によるバッテリーの長時間駆動、性能の向上、価格の安さ、将来性といった多くの魅力を備えています。Mac、Windows、ChromebookといったOSとの相性も良く、それぞれのOSでARM CPUのメリットを活かしたモデルが登場しています。
x86アプリケーションとの互換性やソフトウェアの選択肢といった課題はありますが、最新技術の進化により、これらの課題は克服されつつあります。ARM CPU搭載パソコンは、今後も進化を続け、パソコン市場において重要な地位を占めていくことが予想されます。
ARM CPUの進化は、パソコン業界に大きな変化をもたらす可能性を秘めています。x86アーキテクチャが長年支配してきたパソコン市場に、ARMアーキテクチャが新たな風を吹き込み、ユーザーにさらなる選択肢と可能性を提供するでしょう。ARM CPUを搭載した革新的なデバイスの登場、そしてARMエコシステムの拡大は、パソコンの未来を大きく変えるかもしれません。
引用文献
1. ノートパソコンテクノロジー – Arm®, 12月 23, 2024にアクセス、 https://www.arm.com/ja/markets/consumer-technologies/laptops
2. 【第15回】 ARMプロセッサを使ってみよう – シリーズコラム 「よろずIT・ネットワーク情報」- いさぼうネット, 12月 23, 2024にアクセス、 https://isabou.net/knowhow/colum-it/colum15.asp
3. 世の中ARMだらけ!? 現代社会を支える「ARM」ってなんだろう? – ドスパラ, 12月 23, 2024にアクセス、 https://www.dospara.co.jp/5info/cts_str_pc_arm.html
4. ARM の CPU はスマートフォン以外でも大活躍しています | 法人向けパソコン(PC)・計測器レンタルなら横河レンタ・リース, 12月 23, 2024にアクセス、 https://www.yrl.com/column/arm_cpu.html
5. 組み込みシステムにARMを実装するメリット、デメリット – KUMICO – FSI Embedded, 12月 23, 2024にアクセス、 https://www.fsi-embedded.jp/kumico/column/3447/
6. Arm版Windowsとは何か?その性能や詳細を解説 – システムクリエート, 12月 23, 2024にアクセス、 https://www.syscr.co.jp/blog/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A2/p6597/
7. Armv9ベースの新しいCPUがモバイルを超えてAIを高速化 – Arm®, 12月 23, 2024にアクセス、 https://www.arm.com/ja/company/news/2024/06/armv9-cpus-consumer-devices
8. Arm、「2030年までにはWindowsで支配的なシェア」と大胆予測 – PC Watch, 12月 23, 2024にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/event/1597494.html
9. Core Ultraで2024年のPC業界のトレンドとなる「AI PC」、その現在地と未来, 12月 23, 2024にアクセス、 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1555375.html
10. AMDのRyzenシリーズはIntelのCPUとは何が違うの?おすすめはどれ? – NEC Direct, 12月 23, 2024にアクセス、 https://www.nec-lavie.jp/products/contents/ryzen_pc.html
コメントを残す